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2009年1月25日 (日)

「音響工房アナログ式」のルーツ①  AMPEX AG-440

■「アナログ式」の製作する機器のサウンドが、どのような歴史をたどって出来上がったのか。ここでは、道場主が実際にスタジオで使ってきた機器をたどりながら説明していこうと思う。

■1回目はアナログテープレコーダーのAMPEX AG-440。資料映像は8トラックだが、雰囲気だけでも十分に味わえるのでご覧ください(他人様のだが)AGは次回で書くSTUDERのA-80と同じくアンプ部以外の基本的な部分は同じである。勿論テープ幅が異なってくるので走行系は違うが、単純に言ってアンプを積み上げた形になっている訳だ。AGには資料のようにマルチトラックの製品もあったが、私が使ってきたのは2トラックで、主にマスターレコーダーとして使用した。MTRはAMPEXのMM-1200-16と24を愛用していた(これもアンプはAGとほぼ同じ)他にAMPEX ATR-102/2トラックも使っていたがフェライトヘッドのザラついた音が特徴だった。

■その姿はまさにアメリカン・ヘビーデューティ。ヨーロッパの機器、例えばスチューダーのような精緻な作りや仕上げではないが、見た目はとにかく頑丈である。その無骨な外観の通り、音には独特の存在感。鮮度が高く、力強い芯があり、生き生きと、演奏の躍動感を損なわない。もちろん繊細な音は繊細に。弱々しいのとは違う。とにかく音楽のジャンルを選ばず、音にビシっと筋を通す名機なのである。

■しかし、その至極の音を手に入れるための道のりは平坦ではない。このAGの使い勝手は極めて悪いのだ。テープカウンターはないし、走行系はジャジャ馬と評された程で、サーボなしのモデルはテープテンションが安定しない、注意しながら操作しないと、テープがバックラッシュして大事なテイクを駄目にしてしまう可能性もある。サイズは中型の冷蔵庫くらい、、、。まるで設計士が’音’のために全てを犠牲にしたとしか思えない。いやこれは、ミキサーへの挑戦状なのか。■だからこそ相対する方も緊張感が生まれて、五感が研ぎ澄まされる。もちろん現在のデジタル機器に対する緊張感とは違う。それはデジタルデータ(無機物)を扱うか、アナログテープ(生きもの)を扱うかの違いであるように思う。

■使い慣れている人は、例えば早送りしてテープの目的の位置を出す時は、テープリールに軽く手を添えてブレーキをかけながら行う。それぞれのエンジニアが、自分だけの技を持っている。ではなぜそこまでして、じゃじゃ馬に乗りたいのか。もちろん、その存在感のあるAG独特のサウンドは、他の機器では得ることが出来なかったからだ。

■ディスクリートのアンプとテープヘッドとその形状、ジャジャ馬の如き走行系、周波数特性の暴れ具合、そしてAMPEXのスタッフの情熱が絶妙に組み合わさって出てきたサウンド。その音を現場で知っている自分は幸福で、今や’アナログ生き字引’であると実感する。だからこそ、自分の手と耳が覚えている’音楽的な’サウンドを、現在のデジタル現場に少しでも再現したい。もちろん他にもテープレコーダーは数種類使ってきたが、特にこのAMPEXが「アナログ式」の指針の一つになっている。

■次回はAMPEXの対極にあるといえるヨーロッパの名機STUDERについて書こうと思う。(つづく)。

音響工房アナログ式  http://analogmode.jimdo.com

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