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2006年11月19日 (日)

「1979.12.31」 後編

■駆けずり回り、汗みどろになり、いくつもの回線を直引き(※1)し、やっとたどり着いたサウンドチェック。8トラックとはいえ一応マルチ録音、各バンドで録音レベルやEQを決めつつテスト録音。 演奏状況をチェックしてリハーサルは終了。テスト録りしたテープをプレイバックしヘッドフォンでチェックする。
   特に問題はない、テープをストップしてマルチの走行系をクリーニング。 あとはPAのチーフと最終の打ち合わせをし、スタッフと飯を食って差し入れのビールを飲む。
   そして一服しながら開場を待った。
      
   人がホールを埋め尽くし、熱気でかげろうが立ったように見えた。
   本番は凄かった!
   予想はしていたが、出音が安定していて通常の音楽バランスで演奏するバンドだけではないのだ、、、 バランスの取りようがないほどの凄まじいダイナミックレンジ!(※2)出演した9バンドがそれぞれ 音量に大きな差があり、編成も違い、出音も違うまではいいとして、それに加えて単に演奏するだけではなく激しく動き回り、叫び、マイク(SM58)でベースを掻き鳴らし、大車輪の如く振り回された58は 床に激突!ベースのDI(※3)からプラグは抜け、アシスタントをステージに走らす。 マイクアレンジなど無用だとばかり、ステージ上を暴力の音が走る。
    スターリン登場!着席は興奮のるつぼと化し、上下に律動したかと思うと波打ち
    ダイブした遠藤氏が沈んだり浮かんだり、、、再びステージに立ったときにはズボンが無かった、、、パンツもか?
    S-KENのツボを心得たスピードとは異なる暴力的な速さで加速されたトランス状態。
    私はこのようなステージは初めて見た、今でこそダイブ等当たり前になってるが、なんせ四半世紀前なのだ。その後も怒涛の如くステージは進行し、PAもそうだが録音サイドも人為的トラブルが発生しないことを 祈りながらもいつしか情況にのめり込んで仕事をしていた。
   テープチェンジを何度しただろうか、時刻はとっくに午前様だ。
      
   終わった、、、、、、、! 途端に正気に戻ったような気がした。

 差入れの缶ビールをあおる、一息ついてバラシ(※4)始める。PAのチーフと握手を、、、またなにかの節にはよろしく!機材の積み込みが済んでACBを後にした。
      
   このあと知り合いのギタリストのアパートで仮眠をしてから
   とっぱらい(※5)のギャラを懐に元日の南房白浜(温泉)へと私は向かった。
       
   (電車に揺られながら一杯やってると思い出したことがあった。
 初めてスターリンのレコーディングをした時のこと、あるメンバーの髪が赤茶色なので「染めたの?」と聞いてみたら、「ナイフで刺されてからこうなった」と言っていた。つーことは、今度「ヤラレタラ」、、、)
      
   某スタジオでのMIXは2,3日掛かった気がする。今回のトラック割りはその①で書いてあるが 実際には回り込みやオフマイクの音も含め複数の違うパートが同一トラックに入れてあるので 先にも書いたように8トラックでも基本は2CH一発録りであり、全体的に調整していくという作業が続いた。
      
   (Pro Tools等のDAWのシステムが普及している現在では簡単に多くのトラックを用意することが出来るので考えられないことかも知れないがトラック数が少ないということは決して悪いことではないのだ。2ch一発録音もそうだが、いさぎよく行かねばならないので基本的にやり直しの効かないところから来る緊張感は演奏者とミキサーに良い影響を与えるからだ。)
      
全曲MIXが終わり、シブイチ(※6)アナログマスターのシロミ(※7)を入れ、コピーのサブマスターを作った、これでミキサーとしての仕事は完了した。
      
  後日談
      
すぐにもカッティング(※8)及びプレスに回すということだったが、なんの音沙汰もなく   一ヶ月が過ぎた。 スタッフだった一人に連絡をとると暗い声で「ボツになりました」、、、えっ、、、!?制作会社とオーナーは忽然と消えてしまった、とのことだった。こうして「あの日」のスコッチ206(※9)マスターテープは闇の中へ。

街に冷たい風がヒュッ!といって通り過ぎた。
      
※1 マイク等の回線をマルチケーブルを使用しないで1本ずつ直に卓へと入力すること。
※2 音の小さいところから大きいところまでの幅

※3 ダイレクトインジェクションボックスのことでEG,EB,KEY等の楽器の出力または、後につないだエフェ    クター等の出力からこのDIを通して卓に入力する。
※4 仕事が終わりセッティングした機材を片付けること、撤収とも言う。
※5 ギャラを銀行振込ではなく当日払い(キャッシュ)で払うこと。
※6 1/4インチ幅のテープ、局関係では6ミリとも言う。アナログでは1/4インチで2ト ラックというのが 基本。ハーフ(1/2インチ4トラック、1インチ8トラック、2インチ16トラックになる。
※7 マスターテープのドアタマのOSC(基準信号)の始めと終わりや、曲のアタマとケツに無地のリーダーテープまたは19cm毎にマーキングされたタイミングテープを入れること
  ※8 上がりがアナログディスクなのでCDマスタリングではなくノイマン等のカッティングマシンによってラッカー盤の音溝を切ることになる。それから幾つかの過程を経てプレス工場へ行くことになる。
  ※9 当時のプロ用アナログテープの標準、その後AMPEX456等に移行していく。

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