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2006年5月10日 (水)

トム ダウド

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GWに渋谷のアップリンクでトム ダウドのドキュメンタリーを観た。思い起こせば60年代から彼の録った音楽を聴いてきたことになる。当時は裏方、特に音楽の録音に関しての情報は殆どなくレコードのジャケットにもエンジニアがクレジットされていないものも多かった。

70年代に私は録音業界の末席に入ったのだが(一応まだ現役)アトランティックやスタックスのレコードもよく聴いていたのでトム ダウドというエンジニアを知ることになった訳だ。この映画を観るまでは寡黙な人だと思っていたのだがその反対でよく喋り、才気煥発な人であったのが印象的だ。なにせ今まではほんの少しの写真と記事でしか知る由がなかったのだから。

DAWが発達し多くの人達が使っている現在、昔と比べようのない程のトラック数を使い、更には周辺機器もアウトボード、プラグインソフト等ありとあらゆるものが用意されている。トム ダウドはただ単にこう言っている、今は多くのトラックを用意できるし録った演奏を自由に編集することが可能だと。良いとか悪いとかはなにも言っていない。

私が録音の世界に入った時も仕事によってはフルトラックのレコーダーを使ったモノラル録音やマルチで録った後モノでトラックダウンするということをやっていた。マルチトラックで録るようになり何度でもリテイクすることや演奏の差し替え等ができるようになっても忘れてはならないのは演奏のドキュメンタリー性だと考えている。

その時の演奏は「その時」しかないからこそ演奏者もエンジニアも気が入る。そのかわり演奏者もエンジニアも相当の覚悟が必要だし(笑)経験や技量もいるわけだ。自分の使っているスタジオのアコースティックを経験によって熟知し、各楽器間の音の回り込みをマイキングで調整することで生かしていく。これらはテイクする前にやっていくことで後からでは決して出来ないことだ。当たり前だが一番大切なのは「耳」であって眼ではない。

今と比べて70年代の日本のスタジオはシンプルだった。リバーブもルームエコーや鉄板エコー(EMT-140等)でディレイはテープレコーダーを使ってかけたりしていた。情報も少なく周辺機器も発達していない時代だったがエンジニアは非常に個性的な人が多かった。

エンジニアというものは回りを見渡して皆がそうやっているとか、時代がこうだからとか、マニュアル的なものにがんじがらめになるのでなく本来それぞれが自分の感性とやり方でできる仕事なのだ。今はというと、エンジニアというよりプロツールスのオペレーターなのかなと感じるのは私が年取ったからだろうか、、、トム ダウドもそれを言葉ではなく語っていたのかな。

この先もずっとトム ダウドは私の中に生き続けていくだろう。

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