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2005年7月 5日 (火)

五感を鍛える

■昨年暮れ、某放送局に数台のマイクプリを納品した。デジタル化の最先端といえるような現場にも、ハンドメイドのアナログ機材が入り込む余地が残されている。例えは大袈裟だが、NASAロケットの先端に下町工場の手仕事が採用されていることを思えば、アナログ(ハンドメイド)の可能性は計り知れないのだと励みに思った。

■オートメーション化された地下鉄の運転手が、ボタンを押すだけの自分の仕事に虚しさを感じているという記事を読んだことがある。ゲームでしか経験したことないが、本来電車の運転も五感+第六感を駆使したアナログ作業だ。そこに面白さがあり、子供たちが憧れる仕事として存在し得た理由もあるだろう。それが先日の脱線事故しかり、現在は効率優先の味気ない仕事になっている実情がある。スタジオを電車に例えれば、多くのエンジニアも(もちろん私を含め)似たような経験を少なからずしたことがあるだろう。この10年以上、学校で後輩の育成にもあたっているが、教育の現場も決して例外ではない。デジタル技術を身に付けるのはプロとして当たり前のことだが、生徒たちが録音エンジニア=オペレータという認識を持ってしまうのではないかと、正直ジレンマを感じている。

■ますます「音の均一化」を要求される現場で、エンジニアが個性を発揮できる場はどこにあるだろうかと考える。もっと言えば、今やエンジニアに「個性」などは要求されていないかもしれない。ただそれでは、この仕事を一生をかけて続けるほど魅力のあるものに出来るだろうか。昔話になってしまうが、かつてのアナログの録音システムでは個性を存分に発揮できたのは言うまでもない。学校という便利なものもなく、現場に飛び込んで五感+第六感を使い体で覚えていった。「あの人の音」といわれる録音が確かに存在し、それを求めてミュージシャンも集まってくる。そういう時代があったということすら、今の若手には信じてもらえないかもしれないが。

■私がアナログ機材を作る理由のひとつに、デジタルに慣れ親しんだ特に若い世代に使ってもらいたいという希望がある(別に私の機材でなくてもよいのだが、安いギャラで手にできる機材は限られているだろう)。デジタル機材と組み合わせることで「アナログ感覚」というものを体験してもらえれば嬉しい。そして僅かな音の変化もくみ取れる耳を養って欲しい。私たちは単なる「データ」を扱っているのではなく、「音楽」を相手にしている。波形や数字だけでは語り尽くせないのが音楽の最大の魅力なのだ。もちろん体で覚えた「自分だけの感覚」は、大きな武器にもなることも覚えておいて欲しい。

音響工房アナログ式  http://analogmode.jimdo.com

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